松田元×大下英治「世界の終わり」対談vol.3

松田元×大下英治「世界の終わり」対談
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大下:孫さんは、江副さんとも共通点があるんですよ。
松田:あのリクルートの。

大下:実は二人とも会社に勤めたことないんですよ。ここが面白いんだ。
松田:お二人とも学生時代から企業していますからね。

大下:学生時代から企業した人たちの特徴として、偉いとか、なんとかとか、役職とか、こういうことにはあんまり興味ないんだ。
松田:確かにそうですね。

大下:リクルートも社長と呼んじゃいけなかったんだから。
松田:~さん、ですよね。

大下:社内では江副さん、だったんだよね。学生時代から行った人たちは面白いんだ。
松田:私も学生時代からの起業家としてそのあたり分かります。

大下:私はね、ホリエモンも好きなの。ホリエモンがあの、サイバーエージェントの藤田さんの下請けだったの。その頃からあの、取材をしてたの。で、「ああ、面白い男だな」と思っていたの。起業家の人たちってね、取材をするでしょう。
松田:そうですね。

大下:取材をしてビジネスの話が終わったら「はい、それまでよ」っていう社長が多いんですよ。
松田:そうなんですか。

大下:ところが。彼らはビジネスの話が終わった後に、例えば孫さんでも、坂本龍馬の話をしたりしてましたよ。よくね。
松田:そのあたりが、普通の企業家と学生企業家は違うんですね。

大下:ホリエモンは藤田さんの下請けしてる頃から、よく宇宙旅行の話をしてましたよ。ビジネスの話が終わった後にね、そういう話ができるような余裕を持っているのがいいの。ビジネスからその人をマイナス(引く)とゼロ。ビジネスを取ったら何も残らない人はつまらない。要するにその人からビジネスを引いてたくさん残る人が良い、それが起業家として必ず成功する、とは言わないけど。
松田:なるほど。人としての魅力ですね。

大下:面白さやチャーミングさというかがないと人を惹きつけられない。堤清二(西武鉄道の元オーナー)もそうだった。そういう意味では、私は中内さんも好きでね。
松田:ダイエーの創業者の中内さんですね。

大下:ある時、私が大阪の歌舞伎座に行ったときのことです。そうしたら中内さんが居るんですよ。
松田:すごい偶然!

大下:その前に中内さんの本を書いてましたから、中内さんなんで、中内さんと歌舞伎って合わないじゃない。イメージがね。それで「中内さん!」って声をかけてね。「ああ、大下はん、どうしているのよ」「いや、それより中内社長はどうしているの、ここに」って言ったの
松田:面白いなあ。

大下:するとね「おう、そや。あのな、実はわい、これ、わい買っとんのや」って。歌舞伎座買ってるんだよ、ダイエーが。
松田 へぇ! 粋ですね、また。

大下:「へぇそうなの」って言って。で、じゃぁ「飯食おうか」「飯食おう」って。
松田:凄いことになってきましたね(笑)。

大下:それで「中内さん、(ここの歌舞伎)見るだけじゃわかりにくいよ」って話とかして。東京の歌舞伎座はね、こういうの(ヘッドフォン)借りててね、説明しているんですよ。
松田:確かにそうですよね。

大下:そうしたら中内さんが割り箸の紙を開いて色々書き出して、「それなんぼや? それ煩わしくないんか、こう見とるのにまた解説したら煩うないか」って。「煩うないですよ、これ良いんですよ」って言ったら、「ああ、そうかい!」ってね。そういう事をさ、サラサラっと。
松田:新しいものやいいものをなんでも取り入れようとしてるんですね。

大下:中内さんにはまだ面白い話があってね。私、13年間、週刊文春の記者してたんです。
松田:もちろん、もちろん存じ上げています。

大下:で、週刊文春って6割くらい東京で売れるんです。あとの4割が地方なの。その内3割、あとの3が大阪なんです。
松田:へぇー、そうなんですね。

大下:それであとは1が地方なんです。それを中内さんに言ったの。そうしたらすごく興味もってね。やっぱり販売の分布だから。小売業としては。
松田:そうですよね。

大下:それで「大下はんもう一回言うてくれ」と.。またそれを、そこにあるもので、パーッと書いて、「6、3、1か。どうしてこんななるんや」ってね。そして「いや、それは地下鉄と関係あるんですよ」と。
松田:なるほど。

大下:大体週刊誌なんていうのは、地下鉄とか行き返りの電車で読むんでね、家に帰ってじっくり読むっていうのは少ないんですよ、と言ったわけ。
松田:確かに社内で読みます。

大下:中内さんは「そうか。東京は通うのに地下鉄や電車があるからな」って。
松田:そこで色々と中内さんは分析したんですね。

大下:そうそう。分析するんだ、すぐ。それで「ああ、そうか! そうかいな! これありがとう! 来週の会議でな、言わせてもらうわ」って。
松田:すぐに取り入れる(笑)。

大下:好奇心がね、あるんですよ。中内さんなんかは、戦争体験もしているから。色々貪欲なところもあって。中内さんの本書いた時にこんな話も聞いたんです。
松田:興味深いです。

大下:戦争でね、飢えてね、もう何もないから革靴までかじるんですよ。その時ね、彼が、「大下はんな、夜いつ殺されるかわからない」って言うの。極限状態だと仲間に殺されて、中の食料品奪われたりするのよ。
松田:はい。

大下:「だからな、夜な、寝る時な、わしはいつ一緒に、隣で寝る男に殺されるかわからんのだよ」て。「恐らく、隣の奴もそう思っているんやろうけど」と。「だから警戒しているんやけど、寝ないと明日生きていけないんだよ。だからしょうがないな、疑いながらもなぁ、やっぱり寝るんや」って。
松田:本当に極限ですね。

大下 で「朝目が覚めるやろ」と。「太陽がチカチカするやろ」と。「眩しいやろ」と。目を開ける。パッと。「ああ、隣の奴に襲われんでな、生きとった」って。「ありがとう思う」って。「隣の奴もいるなぁ。こいつもまたホッとした顔してんのや」って。「でもな、その時思った。極限までいくとな、人間はやっぱり人間を信じるしかない」って言うんだよ。
松田:信じるしかない、ですか。

大下:私がビジネスの本を書くだけなら、こういう話は必ずしも聞かんでもいいんですけど、そういう話は聞くのが楽しいし、こういうことを話せる人こそが面白い。
松田:人物引くビジネス、の部分の中身の部分ですよね。残っている中身ですね。

大下:そういうこと。
松田 なるほど。

大下:中内さんに最後に会った時、羽田からね、福岡、小倉に行く時でした。ほら、中内さん、福岡にホークスを買ってましたから、
松田:そうですね。

大下:それで「中内さんどこに行くの?」って言ったら、待合室で、「あれや、ダイエーが優勝したんでな、パレードあんのや。それに行くんや」って。私はちょうどよかったと、もっと中内さんの話聞きたいからね、「一緒に隣になんとか空いてたら座らせてもらっていいですか」って。
松田:色々と飛行機の中でお話しをしようと。

大下:でもね「あかんのや」って言われちゃったの。その時ね、私は一応人に招かれて行く用事だったからファーストクラスに乗る予定だったんです。でも、中内さんは「わいは普通のクラスだから。わいが良いクラスに乗っててみい。会社がおかしくなっているのにさ、ね、まだ良いクラスに乗ってる、って書かれるんだよ」って。
松田:当時はダイエーの経営危機は話題になってましたからね。

大下:「大下はん悪いけどな、ちょっと一緒に座るわけにいかんのや」ってね。あの、帝王と言われたな、中内さんが、こういう人生かと思って。ね。でもね、やっぱり魅力的なの。
松田:本当に僕も経営者として魅力的な人間になりたいですね。

大下:最終的な人間の魅力は役に立たない物の中にあったりすると思うの。人間、お金とか、すぐ役に立つものが良いと思い過ぎてるわけ。
松田:仰る通りですね。

大下 しかし役に立たないものほど、すごく意味があるものもあるの。
松田:なるほど……なるほど、深い。

大下:だからそういうことを考える時ね、そういうことばっかり、目の前のね、儲けばっかり追っているような人はね、どっかで転ぶ。
大下:あまりそういうものを老いすぎると、やっぱり儲けの中に足を踏み滑らすんだ。薄汚れた儲けの中に、泥水の中に転ぶんだ。
松田:なるほど。素晴らしいアドバイスを頂きました。

大下:そういう面で言うとね、僕が親鸞さんを愛するのには、その考えが自分が一番低いものと見るというのがある。
松田:自分を低いもの、と見る。

大下:絶対者の前で、ね、親鸞さんでいうと如来様ですけど、それは何かって言ったら絶対空なんですけど、それは絶対真理なの。だから自分が絶対だと思って、しめしめって言ってると高転びしちゃう。
松田:高いから転んじゃうわけですね。

大下:低い人は転ばないよ。低いんだからね。でもね、高転びするんですよ、殆どはね。
松田:深いなあ……。

大下:もっと言うとね、「人間は上に向かって堕落する」っていう言葉あるんです。
松田:なるほど。面白い、すっごく面白い。

大下:だから偉くなったな、なんて思ったら、それはどこかで自分を見失うんです。そのどこかで見失うっていうこと、どこかで見失わないという冷静さ。そして距離感を測るっていうことはどこかに絶対性を求めた方がいいの。
松田:自分の中での絶対性。

大下:それを持ってその絶対性と、自分が会話をするっていうことは非常にいいことです。
松田:自分をちゃんと謙虚な姿勢で見続ける、ということですね。

大下:自分を見失わない、ということが大切ですね。
大下:成り上がると大体ね、自分を見失うの。自分を絶対性だと思うと、ドン、ところぶ(笑)。
松田:(大笑)いや、今先生に大変貴重なアドバイスを頂きました。私も、信仰心とか死生観とか、そのビジネスの目先の儲けでない部分を意識して今後は仕事に取り組んで参りたいと思います。大下先生、本当に本日はありがとうございました。

松田元×大下英治「世界の終わり」対談
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大下英治
大下英治

昭和19年年生まれ。広島大学文学部仏文科卒業。大宅壮一のマスコミ塾に学び週刊文春の記者となり数々のスクープをものにする。文春記者時代に『小説電通』を発表し話題になる。月刊『文藝春秋』に発表した「三越の女帝・竹久みちの野望と金脈」が反響を呼び、岡田社長退陣のきっかけとなるなどそのルポルタージュはセンセーションを巻き起こした。昭和58年に週刊文春を離れ作家に。現在、政・財界、芸能小説まで幅広く手がけている。著書多数。近著は『挑戦 小池百合子伝』(河出書房新社)。


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